東京地方裁判所 昭和34年(ワ)6309号・昭34年(ワ)6306号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕本件場所は地下鉄三越前駅中二階通路のほぼ中央に位する場所であつて、被告らはその各一部を賃借し、事務室、倉庫、工場、店舗等として使用している。原告帝都高速度交通営団は、最近の交通難緩和のため本件中二階に設備された未使用の中央段階を新たに使用するとともに、中二階の通路使用部分を拡張する必要があり、また本件場所を駅務諸施設として使用する必要を生じたとして、六カ月前の予告で契約を解除できる旨の特約に基いて、被告らに対し、賃貸借契約解除の意思表示をして、各使用部分の明渡しを求めた。被告らは、本件場所は建設者の主観的意図においても、客観的にみても、建物であつて借家法の適用があり、原告主張の特約は無効であると争う。
判決は、本件賃貸借が借家法にいう建物の賃貸借にあたるとしても、それは一時使用のためのものであることを次のように認定して、借家法の適用なしと判断した。
〔判決理由〕ところで、仮に、右賃貸借契約が借家法にいう建物の賃貸借であつて、かつ本件場所のようないわば公共的性格を有する場所(後記認定のとおり、本件場所は本来地下鉄の乗降客の通路として設計建築された中二階通路の一部であり、道路法にいう道路の占用物件である本件構築物の一部を特に東京都知事の許可をえて被告らに使用させているものであり、また道路法第四一条によれば、占有物件に関し新たに道路の構造または交通に支障を及ぼす虞れのある物件を添加しようとする行為は、新たな道路の占用とみなされ、道路の占用許可が必要となるのであつて、占用物件の使用にはこのような制限がある外、同法第七一条によれば、道路管理者は道路の占用物件に対して種々の監督処分をなしうるのである)の賃貸借についても、賃借人の保護を目的とし、いわゆる社会法的な性格を有する借家法の適用があるとしても、次のとおり、右賃貸借契約は、一時使用のためしたことが明らかな場合であるものというべく、借家法の適用は認められない。
(1) 本件構築物が道路法にいう道路の占用物件(同法第四〇条参照)であり、そのうち本件中二階の一部を原告が前記被告および訴外人らに使用させるに際しては東京都道路占用規則第一四条にしたがつて、毎年東京都知事から許可を受けていたものであることは、当事者間に争いがない。なお、右規則は昭和二八年に施行されたものであり、その附則によれば、同規則の前身は東京都道路占用規程(昭和二二年四月東京都令第二二号)であることがうかがわれるが、さらにその前身は明らかでない。
(2)……を綜合すれば、本件構築物、すなわち地下鉄三越前駅は、将来乗降客の増大することが予想されたので、乗降客の多い駅に採用された場合に、相対式乗降場型(相対式プラツトホーム、線路の両側にホームのあるもの)に比較して、より利点の多い島式乗降場型(島式プラツトホーム、線路にはさまれたホームをいう)として設計建設されたものであるが、島式プラツトホームの場合には、原則として、客をさばくたまり場かつ駅の諸施設を建設する場所として中二階が付きものであつて、本件中二階もまさしく右のような事情と目的に基づいて、乗降客の通路とするために設計、築造されたものであること、本件中二階の一部は、被告らなどに賃貸する以前に、三越デパートの更衣所あるいは商品倉庫に利用されたことがあつたが、これらは当初の設計に含まれていた訳ではなく、更衣所等の構造もきわめて簡単な仮のものであつて、該部分もあくまで通路とするためのものではなかつたことが認められ、右認をくつがえすに足りる証拠はない。
(3)……を綜合すれば、原告の本来の業務は、もとより地下鉄道の経営であつて、本件中二階も、いつなんどきこの本来の運輸業のために、すなわち通路、中央階段(プラツトホームから本件中二階の中央部へ通ずる中央階段が現在は閉鎖されている)、駅の諸施設の建設場所などとして利用するために、必要となるか図り難いので、このような事態の発生に備えるため(もつとも、一、二年後に直ちに本件場所の明渡を要求するような事態の発生は予測していなかつたのであり、本件場所を必要とする時期は明確に定まつていた訳ではない)、前記のとおり、東京都知事の許可が一年ごとに与えられることを考慮して、特に、契約期間は一年とし以後は一年ずつ更新することができること、また、原告の事業経営上緊急の必要が生じたときは(前記の原告の本来の運輸業に必要な場合を予想したものである)、原告はいつでも通知、催告その他の手続をしないで契約を解除できることを、被告および訴外人らとの間で定め、さらに、賃貸した場所に対する権利が転々譲渡されることをあらかじめ防ぐために権利金は一切徴しなかつたことか認められ……
(4) 以上の事実を総合判断すれば、前記賃貸借契約においては、特にこれを短期間存続させる旨合意がなされていたものと認めるべきであつて、一年間の期間が何回か更新されて事実上賃貸借の期間が相当長期になつているものがあり(最も長期のものは、契約締結の時から解除の意思表示のときまで、約一〇年六カ月が経過している)、あるいはその間に賃料の値上がしばしば行われている事実があつたとしても、右賃貸借契約を一時使用のためのものとするのに妨げとなるものではない。(田嶋重徳 田中良二 矢崎秀一)